コロナのホテル療養施設の現場で感じた課題

前回は、ホテル療養の実態や課題についてお話しました。

5/13コロナのホテル療養施設の現状について

他にも、コロナ病棟で勤務していたときにもいくつか記事を書いています。

4/24 私が働くコロナ病棟の現状と、患者が体験していること

5/5 私が働くコロナ病棟の現状と、病院外の現状

バタバタしており、だいぶ間が開いてしまいましたが、今回は、ホテル療養施設で働いて感じた、課題について書いていきます。

ホテルに派遣された初日から、仕事内容に「無駄が多すぎる」と感じ、がっかりする気持ちになりました。この仕事を通して、デジタル化の遅れ、日本の医療システム、縦割り行政などについて考えさせられることになりました。

今起こっている医療崩壊は、もちろん感染拡大によるものではあります。でも、医療システムまたは行政の在り方が招いたものだとも考えています。

実はこの記事を書くのがすごく難渋しました。

今のままじゃいけないことは分かるのですが、きっと問題がいろんな場所(国レベルから一つ一つのホテルレベルまで)に存在していて、どこがどうすれば今のシステムがよくなるのか、すごく難しくて、うまく自分の意見もまとまっていません。

特に、私は派遣ナースの一人として一部の側面しか見ていないので、全ての問題が見えるわけではなく、同僚もみんな派遣看護師のため、そのシステムを誰がどう決めたのかわかっていない部分が多いです。

着地点があいまいですが、私がいる現場の状況から分かること、感じることを、ありのまま書いていくので、皆さんの意見も聞かせてください!

療養施設の看護師の仕事

療養施設の看護師とは

私が働いているホテルは、県の管轄です。県庁が、派遣会社に依頼し、その派遣会社を通じて看護師が派遣されます。

私が働く県には、市が管轄する療養ホテルもあり、ホテルによってはリーダー的な存在がいるそうですが、私がはたらく県下のホテルは、看護師は私が知る限り、全員派遣です。看護師としての経験は様々です。

シフトはその派遣会社が組んでいます。勤務は日勤と夜勤のの交代制です。大阪では24時間連続勤務(もちろん休憩あり)の体制をとっているようです。

療養施設の看護師の仕事ー私の職場の場合ー

詳しくは書きませんが、私の職場での仕事内容はざっくり分けると以下の3つです。

1.入所時の説明

健康観察方法やパルスオキシメーターの使用方法の説明

緊急連絡先や内服薬の持参確認、アレルギーや既往歴の確認

2.入所者の健康観察

健康観察、状態の評価、必要な看護・医療的ケアの提供

3.退所の調整

退所基準を満たす入所者の退所調整、または延期確認(最終判断はホテル看護師ではなく、保健所の仕事)

非効率と感じるお仕事

説明した仕事内容の中では、専門職である看護師として一番時間を割きたい部分は、もちろん入所者の健康に関わる部分(観察や評価、看護ケアなど)です。

しかし、それに時間を割き、集中できるしくみではありません。

非効率と感じる場面はたくさんありますが、今回は二つだけとり挙げて説明したいと思います。

オンラインシステムを活用できない看護記録

看護師は、入所者がオンラインシステム上で入力した健康状態をパソコンで確認しますが、ここで紙カルテのような情報用紙に書き写し、紙ベースで経過を管理します。

オンラインシステムが絶妙に使いづらく、入所者の名前や看護師が観察した内容を書き込む場所もないため、結局すべて紙に移して管理しています。

また、看護師が何かしらの対応をしたとき、Excel上で記録を書きますが、オンライン上のシステムがないため、その記録は印刷してファイルに挟んで紙管理。一日の終わりに県の担当者に、メールに添付して日報とともに送ります。

ものすごく中途半端なデジタルの取り入れ方だと感じます。

電話での退所確認

※詳細すぎて分かりにくい説明になります。申し訳ないのですが、これが一番非効率だと感じるので、書いています。

退所の最終決定権はホテル勤務の看護師にはありません。

予定退所日(発症から10日経つとき)の前日に看護師が保健所に電話し、名前や発症日、現在の健康状態について保健所スタッフにお伝えして、明日退所してよいかの確認をとります。

これにだいぶ時間がとられます。特に金曜日は、週末に退所予定の入所者全員の退所確認をするため、保健所との電話はかなり長くなります。

そして、退所の基準がややこしい。国が定める基準とも違ううえ、保健所によって異なります。誰が決めたか分かりませんが、保健所ごとの基準の医学的根拠はあいまいです。

例を挙げると、37℃以下で退所出来る保健所もあれば、37.5℃以下の保健所もある。72時間症状がないことを確認する必要があるのですが、その72時間の数え方も、解熱した日を0日とする保健所、1日としてカウントする保健所などがあります。そしてそれら基準は国の基準よりも厳しい場合が多く、なかなか自宅に帰れません。

そして、そもそも入所前は在宅療養かホテルか選べたはずなのに、国の基準をとっくに満たしているのに退所の許可が下りないことに納得出来ない入所者が多いです。

保健所との電話連絡で延期を確認し、それをホテル看護師が入所者に伝えても納得できず、また保健所にかける→電話口のスタッフによっては特別に退所日を早めることもあり、再度それを入所者に連絡。(例:37℃出たのが入浴後だったらしいからその日の微熱はノーカウントにしよう、など・・・。)

このようなやりとりが日々現場で行われています。

そして保健所も、基準だけでなく個別の事情や健康状態を考慮して判断するため、スタッフによって判断が違うこともあります。

このへんがトラブルのもとになり、この電話のやりとりに、毎日時間を割いています。

そして、その退所確認をする保健所側のスタッフも時間をとられて本当に大変だと思います。

現場からみえる課題

とにかく紙ベースの管理や電話が多く、オンラインシステムが中途半端で上手く機能していません。

データ管理で保健所とデータが共有されていれば、ひとりひとり電話しなくても健康状態が共有され、保健所は退所可能かの確認ができます。そもそも、保健所業務が膨大になっている今、そもそも保健所の退所最終許可が絶対必要なのかも疑問です。

ただ、日替わり勤務の派遣看護師しかいない現状では、保健所の最終判断が妥当だとも思うので、現場を統括する医療スタッフがいないことも課題だと感じます。

また、市町村ごとに基準がことなり、医学的根拠に基づくものと感じられないことは本当にやっかいです。

医療スタッフの不足が叫ばれていますが、こういった非効率な業務がもっと整備されれば、貴重な人材をもっと適切に配置できると思います。

保健所の業務量、責任範囲の広さ

保健所で働いたことはないので詳しくありませんが、そもそも、保健所の業務が多く、責任も広すぎるのではないかと思っています。

ネットニュースやSNSで陽性者のコメントを観ていると、保健所への不満・クレームが本当に多くみられます。ホテルだけでも保健所がらみのトラブルが多く、それを保健所が悪いと言ってしまうのは簡単ですが、必要な業務に手が回らないほど保健所がパンク状態であるという現状があるのだと思っています。それは保健所だけの問題ではなくてなにかしらの仕組みや構造に問題があると思っています。

在宅やホテル療養だけではなく、病院でも保健所との連絡が必要です。大阪のコロナ病棟で勤務していたとき、保健所から毎日電話があり、入院中の患者ひとりひとりの患者の健康状態の共有をする必要がありました。すべて電話です。

陽性者の把握や健康状態の確認や指示など、保健所は非常に重要な役割を担っている一方で、「外出後に手を洗うのを忘れてご飯を食べてしまって心配。」「昨日会った友達の、その友達が発熱したらしいけどどうしたら良いか。」といったレベルの電話対応まで、保健所が担っていると聞きました。

一般の陽性者や濃厚接触者に関しても、極端に言えば、とにかくコロナに関することは、保健所に電話で確認すれば良いというような認識が強いと感じています。そしてコロナに関することのほとんど全てが保健所を通じて行われるため、不満が向く先は保健所になったりします。

以下のメディアに取り上げられているように、保健所は今すごく大変な状況だと思います。

神戸新聞:「残業200時間超も」保健所の業務逼迫 コロナ患者急増、246人体制でも足りず

朝日新聞:保健所からの電話が来ない 職員「普通の状態じゃない」

電話が追い付かない中で、在宅で人がなくなっています。日々そのプレッシャーの中、増え続ける感染者の対応をされています。陽性者を助けたい気持ちで終わらない業務をこなしている中で、電話が遅いというクレーム対応も行っています。

”感染リスクを背負って働くヒーロー”のように扱われることの多い病院スタッフとは違い、不安を抱える市民からの不満を向けられやすい職業だとも思います。

責任や業務はもっと分散できると思うし、多すぎる業務量は、外から見ているだけでも、効率化して減らせる余地がたくさんあるように思います。

本当に保健所の支援が必要な人たちに手が届くよう、業務を整備していく必要があると思います。

医療システムをよりよくするためには

縦割り行政、デジタル化の遅れ、融通の利かなさなどの、多くの課題があると思いますが、課題といっても国レベルから市町村、保健所、ひとつひとつのホテルまで様々で、問題が一か所に集中しているわけではないと思います。

だからこそ、どこのレベルに目をを向ければいいのかは難しいです。現場スタッフももっと声をあげるとか、現場との調整役や現場医療スタッフのリーダーを入れる等の小さい取り組みも必要だと思っています。

今回は、現場から見える課題ということで、保健所について多く書いていますが、今の医療崩壊を立て直すには、国や都道府県レベルでの政策や、基準の統一、責任範囲の振り分け、デジタル化の促進など、大きなレベルでの取り組みが必要だと感じます。そしてそれは現場レベルとのコミュニケーションが必要だと思うし、国レベルの取り組みを正しく現場と共有していくことも必要だと思います。

医療スタッフは確かに不足しているかもしれませんが、ちぐはぐで非効率なシステムや業務がもっと整備されれば、貴重な医療スタッフをもっと適切に配置できると思います。

デジタル化の遅れに関しては、9月に国のデジタル庁が発足が決まっています。

デジタルについて全く詳しくないのですが、海外ではもっと早くからデジタル管理を取り入れることで、スムーズな対応を行っている国もあります。ワクチン接種の振り分けや管理についても同様です。

一概にデジタル化するのが良いとか、全て正しいとは思いません。医療サービスを提供する看護師として、人との直接な関わりを大事にしていきたいです。でも、今の状況はあまりにも時代遅れで、デジタルの良い部分を全然取り入れられていないと感じます。

9月に発足するためコロナ対応に生かすにはかなり遅いですが、今後のデジタル化の動きには期待したいと思います。

まとまりのない記事になってしまいましたが、みなさんの体験や意見も聞かせてほしいです。とにかく医療崩壊が食い止められ、助かるはずの命が助かるよう、改善されていってほしいと思います。私もいち看護師として、出来ることをしていきます

読んでいただいた方、ありがとうございました!

前回の記事:5/13コロナのホテル療養施設の現状について

コメント

  1. […] ・コロナのホテル療養施設の現場で感じた課題(看護師の仕事内容、医療システムの課題について) […]

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